風のよう嵐のよう

 

 ちょっと変わった子犬は、ちょっと変わった「大きい黒い犬」に成長した。

 

 

 今でこそ思うが、あの犬は「犬」というより「猫」だった。中身が猫の犬。凄く賢くて、その分ちょっと身勝手で、遊ぶことが何より大好きで、自分で自分のことを済ませようとするところがあった。群れの中にはあるのだけれど、自分の主導権は自分にある感じがした。名前を呼ばれても自分の気が向かなければ、こちらにやって来て媚を売るような「犬っぽい」真似はしない。訓練が入ってない、と言われるとそれまでなのだけれど、我々はその勝手で賢い犬のことが大好きだった。

 

 黒ラブはスポーティーな生き物だ。とにかく運動量が半端ない。毎日近所の河原まで歩いていき、そこで練習する野球少年たちに疎まれながらボール遊びをした。誰に教えられた訳でもないのに、彼女は最初から、レトリーバーの名前の由来に恥じぬレトリーヴの名手だった。そのうちボールでは犬人共に物足りなくなって、フリスビーを買った。
 ヒュンと風を切って飛んでいく円盤を一目散に追いかける黒い塊は、落下も待ちきれないとばかりに高く飛びあがって見事なキャッチを見せる。そして誇らしげに尻尾を立て、小気味の良いリズミカルな足取りで帰ってくる。堂々たるご帰還だ。そして先ほどあんなに必死に取ってきたばかりの獲物をニンゲンの足下へとあっさり置いて、さあ次だ次だと促してくる。飽きることがない。もうやめよう~そろそろ帰ろう~とこちらが音を上げるまでずっと遊んでいた。体力オバケなのだ、若い黒ラブという生き物は。

 

 だからあの犬との思い出は、8割が散歩途中の出来事になる。突然草むらに分け入ったかと思うと、野球少年たちが探すのを諦めたのであろう硬球を口にくわえて飛び出してくる。見つけましたー!戦利品ですー!
 拾い上げたボールをつ、と地面に置くと、まるでその上に乗るように身体ごと転がり出す。これは彼女の特技だった。ごろんごろんとお腹を見せながら地面に転がる、その背中の下には丁度さっき置いたボールがある。ボールが背中のいいところを刺激するように、時折口で調整しながら体をくねらせて転がっているのだ。自分でマッサージ法を編み出す犬。これ動画撮ってユーチューブに上げたら絶対バズったって……と、今でもずっと思っている。そして「おもしろ動画」とかいうアカウントに転載されるんだ!やーいやーい!